海外仮想通貨取引所のトラベルルールについて!送金の影響や各業者の対応は?
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海外仮想通貨取引所を利用する上で、業界のルールを遵守しなければなりません。
代表的なルールとしてトラベルルールがあります。仮想通貨や電子決済手段の移転時に、送付人や受取人の情報を通知する義務を果たさなければなりません。
これは、日本国の法律において定められているものであり、日本でトレードする上では対応が必要です。
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あまり知られていないものの、重要なルールです!
では、トラベルルールに対して具体的にどのような対応が必要なのでしょうか。
本記事では、海外仮想通貨取引所のトラベルルールの概要や、トレーダーに対する影響などを解説します。
なお、まだ海外取引所で口座開設していない方は「【2025年】海外仮想通貨取引所おすすめ比較ランキング10選を紹介」を参考にしてくださいね。
海外仮想通貨取引所のトラベルルールとは何?
トラベルルールとは、犯罪による収益の移転防止に関する法律において定められたルールのことです。
具体的には、以下の条文に該当します。
(電子決済手段の移転に係る通知義務)
第十条の三電子決済手段等取引業者は、顧客から依頼を受けて電子決済手段の移転を行う場合において、当該移転を受取顧客(当該移転を受ける者であって、他の電子決済手段等取引業者又は外国電子決済手段等取引業者(資金決済に関する法律第二条第十三項に規定する外国電子決済手段等取引業者をいい、政令で定める国又は地域に所在するものを除く。)(以下この条において「他の電子決済手段等取引業者等」という。)の顧客として電子決済手段の管理を当該他の電子決済手段等取引業者等に委託しているものをいう。以下この条及び第二十二条第二項第二号において同じ。)に対して行うとき、又は受取顧客に対する当該移転を他の電子決済手段等取引業者等に委託するときは、当該依頼を行った顧客及び当該受取顧客に係る本人特定事項その他の事項で主務省令で定めるものを当該受取顧客のために当該移転に係る電子決済手段の管理をする他の電子決済手段等取引業者等(当該委託を受けた者を除く。)又は当該委託を受けた者に通知して行わなければならない。
2電子決済手段等取引業者は、他の電子決済手段等取引業者等からこの条の規定又はこれに相当する外国の法令の規定による通知を受けて電子決済手段の移転の委託又は再委託を受けた場合において、当該移転を受取顧客に対して行うとき、又は受取顧客に対する当該移転を他の電子決済手段等取引業者等に再委託するときは、当該通知に係る事項(主務省令で定める事項に限る。)を当該受取顧客のために当該移転に係る電子決済手段の管理をする他の電子決済手段等取引業者等(当該再委託を受けた者を除く。)又は当該再委託を受けた者に通知して行わなければならない。引用:E-GOV
(暗号資産の移転に係る通知義務)
第十条の五暗号資産交換業者は、顧客から依頼を受けて暗号資産の移転を行う場合において、当該移転を受取顧客(当該移転を受ける者であって、他の暗号資産交換業者又は外国暗号資産交換業者(資金決済に関する法律第二条第十七項に規定する外国暗号資産交換業者をいい、政令で定める国又は地域に所在するものを除く。)(以下この条において「他の暗号資産交換業者等」という。)の顧客として暗号資産の管理を当該他の暗号資産交換業者等に委託しているものをいう。以下この条及び第二十二条第二項第三号において同じ。)に対して行うとき、又は受取顧客に対する当該移転を他の暗号資産交換業者等に委託するときは、当該依頼を行った顧客及び当該受取顧客に係る本人特定事項その他の事項で主務省令で定めるものを当該受取顧客のために当該移転に係る暗号資産の管理をする他の暗号資産交換業者等(当該委託を受けた者を除く。)又は当該委託を受けた者に通知して行わなければならない。
2暗号資産交換業者は、他の暗号資産交換業者等からこの条の規定又はこれに相当する外国の法令の規定による通知を受けて暗号資産の移転の委託又は再委託を受けた場合において、当該移転を受取顧客に対して行うとき、又は受取顧客に対する当該移転を他の暗号資産交換業者等に再委託するときは、当該通知に係る事項(主務省令で定める事項に限る。)を当該受取顧客のために当該移転に係る暗号資産の管理をする他の暗号資産交換業者等(当該再委託を受けた者を除く。)又は当該再委託を受けた者に通知して行わなければならない。引用:E-GOV
要約すると、仮想通貨交換業者が仮想通貨の出金時に、送付人や受取人に関する情報を取得して出金先の仮想通貨交換業者に対して、通知事項を送付することが求められているのです。
通知事項について、個人と法人別にまとめると以下のようになります。
個人 | 法人 | |
---|---|---|
送付人情報 | ①氏名 ②住居または顧客識別番号等 ③ブロックチェーンアドレスまたは 当該アドレスを特定できる番号 | ①名称 ②本店または主たる事務所の所在地 または顧客識別番号等 ③ブロックチェーンアドレスまたは 当該アドレスを特定できる番号 |
受取人情報 | ④氏名 ⑤ブロックチェーンアドレスまたは 当該アドレスを特定できる番号 | ④名称 ⑤ブロックチェーンアドレスまたは 当該アドレスを特定できる番号 |
トラベルルールが誕生した背景には、アンチ・マネーロンダリングやテロ資金供与対策の側面があります。
仮想通貨が国境を跨いだ犯罪に用いられている状況が続いたため、送金に対応する目的で策定されました。
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日本経済新聞とエリプティック社と共の同調査によると、2023年11月末時点で年間2,500億円もの仮想通貨が規制対象国に流入しているとされています。
日本においても、2023年6月に施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律」において、トラベルルールが義務化されました。
トラベルルールによる影響
トラベルルールは、海外仮想通貨取引所だけでなく個人トレーダーに対しても影響を及ぼすものです。
トラベルルールによる主な影響として、以下が挙げられます。
具体的な影響を理解することで、どのような対応を図るべきかが理解できます。
具体的な影響について詳しく見ていきましょう。
仮想通貨取引所に送金できない場合がある
トラベルルールに対応するために、仮想通貨取引所としてトラベルルールに対応した技術の導入が必須です。
主なトラベルルールに対応するための技術としては、以下3つです。
種類 | 導入先 | 特徴 |
---|---|---|
TRUST | 主にアメリカの取引所 | Coinbaseなどの主要な仮想通貨取引所が共同で開発した技術 ユーザーのプライバシーを保護しながら、必要な情報を安全かつ効率的に共有できる |
SYGNA | 主にアジアの取引所 | 台湾の企業である、CoolBitXが開発した技術 大半の日本仮想通貨取引所において採用、多国籍対応により各国の規制要件を満たすように設計されている |
GTR | 国際的な取引所 | グローバルな仮想通貨取引所で採用されている技術 日本国内の仮想通貨取引所での採用は稀であるが、海外仮想通貨取引所ではメジャーな技術 |
上記3つの技術には、それぞれ互換性がないため、同じ技術を採用している仮想通貨取引所でなければ送金できません。
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例えば、日本の仮想通貨取引所を利用している場合、TRUSTに対応している場合が多いです。
一方で、海外仮想通貨取引所に対して送金を行う場合、GTRが導入されている場合はシステムが異なるため送金できないのです。
取引所に送金できない仮想通貨がある
仮想通貨取引所同士で同じトラベルルール対応技術を導入していなければならないと同時に、取引所に送金できない仮想通貨がある点も考慮しなければなりません。
例えば、Coincheckでは送金に対応している仮想通貨が以下に限定されます。
仮想通貨 | 送金可否 |
---|---|
BTC | 〇 |
ETH | 〇 |
ETC | × |
LSK | × |
XRP | × |
XEM | × |
LTC | × |
BCH | × |
MONA | × |
XLM | × |
QTUM | × |
BAT | 〇 |
IOST | × |
ENJ | 〇 |
OMG | 〇 |
PLT | 〇 |
SAND | 〇 |
XYM | × |
DOT | × |
FLR | × |
FNCT | 〇 |
CHZ | 〇 |
LINK | 〇 |
取り扱っている仮想通貨であっても、一部の銘柄が送金できなくなるため注意が必要です。
送金時に時間や手数料がかかる
トラベルルールによって、以前よりも送金時に時間や手数料がかかる傾向にあります。
これは、トラベルルールによって相手に以下情報の伝達が必要となるためです。
- 送金元のアドレス
- サービス名
- 受取人種別
- 受取人氏名(または法人名)
- 国と地域
また、受け取り先がセルフカストディウォレットと呼ばれる、デジタル資金の鍵をユーザー自身で保持する仮想通貨保管用のデジタルウォレットの場合、リスク測定をそれぞれの事業者で実施しなければならず、時間や手数料がかかってしまうのです。
各仮想通貨取引所のトラベルルールの対応
各仮想通貨取引所において、トラベルルールが適用されて以降にさまざまな対応が取られています。
ここでは、国内仮想通貨取引所と海外仮想通貨取引所それぞれのトラベルルールに対する対応について解説します。
国内仮想通貨取引所
トラベルルールへの対応については、国内仮想通貨取り指揮所によって対応が大きく分かれています。
bitFlyerとCoincheckでは、TRUSTの技術を採用しました。
一方で、GMOコインやbitbankや、SBI VCトレード、DMM bitcoin、楽天ウォレットなどがSygnaを採用しています。
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トラベルルールの導入時、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が統一したルールの導入を模索していました。
実際に、ソリューション対応の開発が各社で進行している中で、導入直前のタイミングで一部の取引所が異なるソリューションを採用する流れとなったのです。
海外仮想通貨取引所
金融活動作業部会(FATF)によれば、、2023年4月の段階で調査対象国135カ国の中で、35カ国で仮想通貨交換業者向けにトラベルルールを導入する法案が可決されているとしています。
上記から、海外ではトラベルルールが法制化されていない国がまだ多いのが実情です。
通知義務がない国の仮想通貨交換業者を利用するケースでは、トラベルルールは適用されません。
2025年現在、トラベルルールの対象地域は以下28地域です。
- アメリカ合衆国
- アルバニア
- イスラエル
- カナダ
- ケイマン諸島
- ジブラルタル
- シンガポール
- スイス
- セルビア
- ⼤韓⺠国
- ドイツ
- バハマ
- バミューダ諸島
- フィリピン
- ベネズエラ
- 香港
- マレーシア
- モーリシャス
- リヒテンシュタイン
- ルクセンブルク
- アラブ⾸⻑国連邦
- インド
- インドネシア
- 英国
- エストニア
- ナイジェリア
- バーレーン
- ポルトガル
海外仮想通貨取引所でも、日本同様に対応技術を導入していますが、以下のように導入している技術はバラバラです。
海外仮想通貨取引所 | 対応技術 |
---|---|
Binance | GTR |
Coinbase | TRUST、Sygna |
Kraken | TRUST、Sygna |
KuCoin | Sygna、GTR |
Bitget | TRUST、GTR |
Bybit | TRUST、Sygna、GTR |
MEXC | TRUST、Sygna |
Huobi | TRUST、Sygna、GTR |
なお、トラベルルールが導入されている国や個人が管理するウォレットや、規制当局から登録されていない業者には適用されません。
仮想通貨取引所が管理していない、個人が管理するウォレットのことをアンホステッド・ウォレットと呼ばれています。
ただし、アンホステッド・ウォレットなどトラベルルール対象外の取引であっても、制当局に登録している仮想通貨交換業者は相手方の所有者情報を記録・収集して、犯罪に繋がらないかをチェックしなければなりません。
トラベルルールの回避方法
トラベルルールには対応が必須であるものの、以下の回避方法があります。
各回避方法について、詳しく解説します。
同じシステムを採用する仮想通貨取引所を利用
トラベルルールに対応するためには、同じトラベルルール対応技術を用いた仮想通貨取引所を利用する方法がおすすめです。
同じシステムを採用すれば、時間と手数料がかかるものの問題なく送金ができます。
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複数のトラベルルール対応技術に対応している仮想通貨取引所を選ぶのがおすすめです!
ただし、仮想通貨の銘柄次第では同じシステムを採用していても送金できないので注意しましょう。
プライベートウォレットを経由して送金
MetaMaskやLedgerといった、プライベートウォレットを経由して送金すればトラベルルールを回避できます。
プライベートウォレットでは直接秘密鍵を管理できるので、仮想通貨の移転などを直接操作可能です。
ただし、プライベートウォレットを経由する場合は送金回数が増えるだけでなく、ガス代が余分に発生します。
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トラベルルールの回避策としては頻繁に利用するのは避けたいものです。
もしガス代を節約したい場合は、仮想通貨決済サービスであるSlashを導入しているZOOMEXやBybitを利用する方法があります。
関連するよくある質問
ここでは、トラベルルールに関連するよくある質問について解説します。
海外取引所のトラベルルールとは?
海外取引所のトラベルルールとは、主にマネーロンダリング防止などを目的とした規制のことです。
利用者の依頼を受けて仮想通貨の出金を実施する仮想通貨交換業者に対して、出金依頼人と受取人に関する一定の事項を出金先となる受取人側の仮想通貨交換業者に通知が必要となるルールです。
日本を含め、28地域が対象法域となっており、取引時に遵守しなければなりません。
グローバルトラベルルールとは?
グローバルトラベルルールとは、GTR (Global Travel Rule)と訳されることが多い、国際的な仮想通貨取引所において採用されている情報通知システムです。
海外の仮想通貨取引所で広く採用されていますが、国内ではBinance Japanのみ採用されています。
TRUSTとSygnaとの互換性がないため、国内仮想通貨取引所から送金する際には注意しましょう。
銀行のトラベルルールとは?
トラベルルールとは、FATFが推奨している規則であり、主に金融機関が顧客からの資金移動を監視するために誕生しました。
元々は銀行やそのほかの伝統的な金融機関を対象としており、最近では仮想通貨取引所にも適用されるようになりました。
仮想通貨の海外送金は規制が厳しいのか?
仮想通貨の海外送金において、マネーロンダリングやテロへの資金供与といった犯罪行為を防止するための規制が世界中で導入されています。
日本でも規制が進んでおり、世界基準で見ても整っている状況です。
2023年5月に開催されたG7財務相・中央銀行総裁会合においても、トラベルルールが議題に上がりました。
共同声明によれば、中央管理者が存在しない分散型金融(DeFi)でのトレードにおいてもリスクがあるとして、世界中で取り組みを加速することをが要求されています。
トラベルルールでは海外取引所へ送金できないの?
トラベルルールが適用されても、海外取引所に対して送金が可能です。
送金元と送金先の取引所が同じトラベルルール対応技術を採用していれば、原則送金できます。
ただし、一部の仮想通貨銘柄では同じトラベルルール対応技術を採用していても送金でないケースがあるので注意してください。
また、直接送金するのではなくプライベートウォレットを介して送金する方法があります。
まとめ
仮想通貨の送金におけるトラベルルールは、主にマネーロンダリング防止の観点から誕生した規制です。
日本でも例外に漏れず対応しなければならず、個人トレーダーにも密に関係するものとなります。
頻繁に送金する場合、対応しているトラベルルール対応技術をしっかり確認して利用する海外仮想通貨取引所を選定しましょう。
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